35冊という記念碑。公共図書館の資料収集の自由をめぐって

A氏の除籍事件がハテナでも話題になったのは2005年前後のことのようだ。
当時のネットの関心は、
①A氏による保守系の本の廃棄の問題(これは「現代の焚書事件」という取り上げられ方をした) と
②A氏の自著の大量購入問題(これは、図書館員による選書利権の告発という形をとってもいた)
という、二つの軸があった。

おおむねこの時期の追及は、保守系市民による、正義派面した左翼批判(やってることはナチスと同じじゃないか)という趣きがあり、図書館(特に公共図書館)のあり方に対する、冷静で、原理的な批判という形にはならなかったようだ。

それから4年が経った。
私はこの事件を、いわばほとぼりが冷めたところで、図書館の自由をめぐる問題として、再考したかった。

そこで、4年が経過した現在、図書館界がこの事件を教訓として、いかに市民の納得を得るに足る対策を打ち出しているのかを調べるために、質問書を日本図書館協会に送信し、ブログを書き、情報を収集し、問題を再考しようと考えたわけである。

しかし、日本図書館協会から紹介された「図書館雑誌」2007年8月号にも、rieronlibrary さんが教えてくれた「図書館の自由に関する事例集」にも、②に関しては、完全に、黙殺されたままだ。
②の問題に関して、選書担当をウン年すれば家が建つといった、話までが語られてもいたのだ。市民が図書館に持っていた信頼や希望のようなものが、大きく損なわれたことは間違いない。

それにしても。
図書館の蔵書の除籍、購入に関して、図書館司書の力は絶大である。
収集方針(除籍基準)を策定し、公開しても、その方針は、一般的かつ抽象的なものであることが多いため(注①)、個々の資料の購入・不購入、除籍・非除籍は司書の「自由」?判断によるところが大きくなることは避けがたい。
図書館の資料収集および保存の自由は、現実的(日々の図書館業務のレベルにおいて)には、司書の判断の自由にゆだねざるをえない。(注③)

残念ながら!、そのように司書の判断で行なわれた、資料の購入、除籍を『図書館の自由に関する宣言』の関連部分(注②)に合致させることは、難しいことではないだろうし、ある程度社会的な力を持つマスコミ(この事件を問題化したのは新聞社であったのだが)によるものでなければ、例えば、ごく普通のバックボーンを持たない一市民による抗議は、図書館の専門家であるところの司書によって、図書館のあり方、その存在意義を後ろ盾にした、図書館に対する無知なる市民の無知なる抗議として、あっさり退けられる可能性が高いのではないだろうか。
しかし市民をこのように軽んじる姿勢が、公共図書館に見られるとすれば、市民の図書館などという言葉は、ただの奇麗事に過ぎない。

私が単なる1利用者としてせっせと図書館通いをしていたころ、壁に貼ってある自由をめぐる宣言を読んで、疑問に、そして不満に感じていたのは、図書館が暴走したとき、市民がいかにそれをストップできるのか、それが明記されていないということであった。

さて。
現に問題とされた35冊の蔵書は今も船橋市図書館に35冊のまま蔵書されている。
予約0
貸し出し0
例えば同時期に出版された酒井駒子の『よるくま』が2冊の蔵書で
予約1
貸し出し1
『くまとやまねこ』2008(湯本香樹実 文  酒井駒子 絵 )が2冊の蔵書で
予約42!!!
貸し出し2
 (以上、7月14日現在の数字)
という状況を考えると、ここまで市民の需要のない本の35冊という蔵書数が実にいびつな数であることがあらためてはっきりしたのではないか。

『知る自由は、また、思想・良心の自由をはじめとして、いっさいの基本的人権と密接にかかわり、それらの保障を実現するための基礎的な要件である。それは、憲法が示すように、国民の不断の努力によって保持されなければならない。』

私も、そしてこの問題に疑問を表明した方も、それぞれ国民のひとりである以上、知る自由を保持しているわけであり、この件について知りたいと思っていたわけだし、私は現に思っている。
そして日本図書館協会の構成員も国民である以上、その私の知る自由に対して「不断の努力」で答えるべきではないのか。

市民の資料要求と(それは市民の知る自由を基礎に置く)、図書館、および司書の資料収集の自由(それは図書館の自由に基礎を置く)とが、常に幸福に合致するとは限らない。
とすればそれを検討し調停する機関こそ、日本図書館協会は用意すべきではないだろうか。、


ぬい針だんなとまち針おくさん (福音館創作童話シリーズ)

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よるくま

よるくま

くまとやまねこ

くまとやまねこ

注①「収集方針」で検索して、トップに表示された豊田氏中央図書館の『資料収集方針』
http://www.library.toyota.aichi.jp/annai/syuusyuuhousinn.html

注②「 図書館は、自らの責任において作成した収集方針にもとづき資料の選択および収集を行う。その際、
(1) 多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する。
(2) 著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない。
(3) 図書館員の個人的な関心や好みによって選択をしない。
(4) 個人・組織・団体からの圧力や干渉によって収集の自由を放棄したり、紛糾をおそれて自己規制したりはしない。
(5) 寄贈資料の受入にあたっても同様である。図書館の収集した資料がどのような思想や主張をもっていようとも、それを図書館および図書館員が支持することを意味するものではない。

注③この場合複数の司書による会議による方法が根本的な解決策となる条件は、対立的な考えを持つ司書が図書館内に配置されているという幸運によって、ある程度もたらされるものに過ぎず、そうでない図書館を想像することは困難ではない。