ふんわりやわらかな差別。正規はどこまでえらいのか

ともんけんウィークリー。3月1日の記事。
『いつか毛玉を吐く日』
http://tomonken-weekly.seesaa.net/article/142495271.html
ともんけん=図問研=図書館問題研究会(http://www.jca.apc.org/tomonken/


記事の前半は書き手のペットのフェレットの話です。
《若干体臭が臭くもありますが大変元気でかわいらしい生き物です。》
実に親しみやすい導入部分ですね。

さて、そのフェレットの体調が悪くなり、心配していたところ、「毛玉」を吐き出して、また元気になったと記事はつづきます。

フェレットは猫と違い、異物を吐きだすことはしません。生まれてこのかた毛づくろいで溜まった毛玉で胃袋がいっぱいになり、具合が悪くなっていたのでした。これが閉塞を起こし手術となると、体への負担はもちろんのこと、看病の面でも金銭面でも大事になるところでしたから、根性で吐きだしてくれた彼にただ感謝するばかりでした。》


記事は後半 突如として、仕事の話になります。
記事を読む限り書き手はかつて図書館で働いていて、異動で2年間別の部署にうつり、ふたたび図書館に戻り11ヶ月をむかえたところのようです。文章を読むかぎり書き手は正規の公務員だろうと思われます。

別の部署で働いたときの感想を書き手はこのように記します。

《もちろん初めての業務を覚えるのは大変でしたが、正規職員ばかりの職場は人間関係の煩わしさも少なく、なんといっても業務に対する思い入れがあまり強くない分、意見の対立があったり、事業を実施する上で判断の必要な時にあまり悩まずに結論を出すことができました。自分に与えられた事業目的を真剣に考え、作業の合理化をしたり、どうすればより良いものを提供できるかと悩みもしましたが、精神的な疲労感は全くと言っていいほど感じませんでした。》

書き手は図書館に戻ってからの11ヶ月を正直な気持ちとして「しんどい」と書いています。
そして
《この11か月間に私のおなかに溜まった毛玉は、イガイガと私の心を曇らせるのでした。》
とメタファーをつかって、前半のフェレットの話とつなげています。実に巧みな構成です。

さて
書き手の文章が別の部署と図書館を対比的に描いているところから察するに、図書館は《正規職員ばかりの職場》ではなかったのだと思われます。非正規の職員か委託のスタッフなどとともに働く、公共図書館だったのでしょう。
そこで非正規職員と一緒に働いて「毛玉」がわたしのおなかにたまったと書くことは、メタファーのひろがりとして、非正規職員=フェレット=毛玉というラインを浮かび上がらせてしまいます。
もちろんメタファーですから、読む人によって受け止め方は違うでしょうが。

メタファーについて参考になる村上春樹さんのエルサレム賞スピーチ。
http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php

なるほど。

村上さんがおしゃるとおり『私たちは皆、多かれ少なかれ、卵なの』かもしれません。
もしそうだとすると、運良くがんじょうな硬い殻を持った卵が、もろくやわらかい殻を持った卵に体当たりをくりかえすことに対して、異議を申したてなければならないでしょう。
体当たりは、相撲の立ち合いを思い浮かべるかぎり、公平で平等な競い合いのように思われますが、頑丈な殻の持ち主が有利なようにあらかじめルールが設定されています。時として、そのルールが道徳と呼ばれたりもします。そこで、行われる力の行使こそ残酷な暴力と呼ばれるべきものではないでしょうか。

ところで、私はこの記事の書き手にたいして、いかにも幼いという印象を持つばかりで、悪い感情を持ちえません。硬い殻を持った弱い卵の一つではないかと思います。

そこで、
「私がブログを書く目的はただ一つです。個々の精神が持つ威厳さを表出し、それに光を当てることです。ブログを書く目的は、「システム」の網の目に私たちの魂がからめ捕られ、傷つけられることを防ぐために、「システム」に対する警戒警報を鳴らし、注意を向けさせることです。」(うそ。でも、この話を書くのは「しんどい」だけでした)

ということで、この一件を、『日野の悲劇』にならって、「図問研の悲劇」と呼んで、語り継いでいきたいと思います。


ps1
この文章はテンプレート・雛形としても優れています。
《正規職員》という言葉をほかの言葉に置きかえることで、別種の差別文書が簡単に作れるからです。ためしに「日本人」と置きかえてみてください。あとは細部を整えれば(フェレットを別の動物に書きかえたりして)完成です。


ps2
このような記事が書かれる一方、公共図書館界は「図書館海援隊」プロジェクトを立ち上げて、現在の混乱する社会に積極的に関わろうとしています。

「図書館海援隊」プロジェクトについて(図書館による貧困・困窮者支援)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288360.htm


さて、『労働者の直面する問題と図書館のできること』
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/01/05/1288525_1.pdf
には『パワハラ』『パワハラに伴うメンタル被害』といった言葉が使われています。

おまえらといっしょに働くと毛玉がたまると、正規職員が書くのは、非正規職員に対するりっぱなパワハラではないでしょうか。
ということで、
「図書館海援隊」に参加している図書館の司書の方、図問研にひとこと言っていただけませんか。
北海道立図書館
秋田県立図書館
東京都立中央図書館
神奈川県立図書館
大阪市立中央図書館
鳥取県立図書館
福岡県小郡市立図書館
のみなさま、よろしくお願いします。